KDレポート

第3号 神奈川同友会景況調査報告(KDレポート) (2015年7~9月期)

業況水準、売上高、経常利益ともプラス水準である。しかし、業種間の格差が顕著に表れている。特に製造業と商業の各DI の数値が他業種よりも低くなっている。また、依然として全業種ともに人手不足の状態から脱却できていない。今後、さらなる人材確保や人材教育といった取り組みを強化していく必要がある。

 

  • 売上高DI、経常利益DI ともにほぼ2 ケタ水準を維持している。次期見通しにおいても売上高DI、経常利益DI で高い数値となっている。前年同期比では消費税増税後の需要の停滞時期との比較となったが、プラス水準を維持している。業況水準DIに関しても34となっている。ただ、製造業、商業では、他の業種と比較すると低い数値となっているので、円安等の経済情勢が影響しているものとみられる。
  • 設備投資の実施企業は全体の2 割強で、建設業、製造業では4 割弱となっており、他の業種よりも設備投資に前向きである。設備投資の内訳では「機器設備」「事務所・店舗」「情報システム関連」という順で割合が高い。
  • 資金繰の状況では、窮屈感は強く表れていない。
  • 経営上の問題は、「従業員不足」「同業者相互の価格競争の激化」「人件費の増加」の順に割合が高い。これらの課題をクリアするために「新規受注の確保」「付加価値の増大」「人材確保」を重視する傾向にある。
  • 全体として景況は、足踏み状態にある。建設業では依然受注量の増大がみられるが、製造業と商業では、停滞傾向にある。大企業の景気回復といった傾向は見受けられるものの、日本経済の先行きは不透明である。会員企業は経済情勢に対応した経営行動が求められる。

 

【調査要領】

(1)調査時 2015 月9月10日~10月10 日
(2)対象企業 神奈川県中小企業家同友会会員
(3)調査の方法 e.doyu(会員グループウェア)とFAX によるアンケート
(4)回答企業数 754 社より126 社の回答を得た(回答率16.7%)
(建設業12社、製造業37社、商業40社、サービス業37社)
(5)平均社員数(1)正規社員24.2 人 (2)パート・アルバイト9.7人

※文章中のDI とは、ディフュージョンインデックス(Diffusion Index)の略で、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数値です。

 

 

神奈川県中小企業家同友会の景況調査
~概況報告~

玉川大学経営学部助教 長谷川英伸

 

景況調査の結果

1. 売上高・経常利益・経常利益の水準・業況水準

1-1. 売上高

全業種の売上高のDI は、前期比で20、前年同期比で22、次期見通しは28 となっている。各業種のDIは下記の図表1の通りである。神奈川県中小企業家同友会の会員企業の業績は全業種プラス水準を示している。しかし、前期比の業種別では、建設業の50、製造業の13、商業の10、サービス業の28 となっており、業種間の格差が存在する。また、前年同期比の場合では、建設業の64、製造業の22、商業の13、サービス業の20の数値を示しており、業種間の格差がみられる。特に建設業のDI は他業種よりも高い数値となっている。建設業は2020 年に開催予定である東京オリンピックの会場設営等の需要増加の影響によって、業績を伸ばしている可能性がある。製造業と商業が比較的低い数値となっている背景には、製造業では円安による原材料費の高騰、大企業の設備投資の伸び悩みが影響しており、商業では製造業と同じく、円安による輸入品の高騰が影響していると考えられる。一方、サービス業では前期比、前年同期比のDI が20 を超えており、海外からの旅行者による需要増加等で観光業や飲食業を中心に業績を伸ばしている可能性がある。

 

図表1 売上高DI値

図表1 売上高DI値

筆者作成

 

1-2. 経常利益

次に、経常利益をみてみる。全業種の経常利益のDI は、前期比で19、前年同期比で18、次期見通しは17 となっている。各業種のDI は下記の図表2 の通りである。売上高DI 同様、全業種でプラス水準である。建設業とサービス業に関しては、前期比がともに20を超えており、他の業種と比べて比較的高い水準を示している。さらに建設業においては、前期比で55、前年同期比で60となっており、売上高の推移と比例しても高い数値である。一方、製造業と商業の前期比、前年同期比は一桁の数値となっている。製造業と商業では、売上高のDI も比較的低く、業績が伸び悩んでいることがわかる。サービス業においては、売上高DI の数値と連動して高くなっている。既述しているとおり、経常利益のDI でも業種間の格差がみられ、今後の動向に注視していく必要がある。

 

図表2 経常利益DI値

図表1 売上高DI値

筆者作成

1-3. 経常利益の水準・業況水準

経常利益の水準については、黒字の割合から赤字の割合を差し引いた経常利益水準DIでみていく。全業種のDIは34、建設業→75、製造業→22、商業→25、サービス業→43 である。全業種で黒字傾向にあることがわかる。特に建設業は75とかなり高いDIを表している。業況水準については、今期と次期見通しについてみていく。今期の全業種のDIは10、建設業→50、製造業→△11、商業→0、サービス業→27である。建設業は、売上高DI、経常利益DIと同様に業況水準もかなり高い数値を示している。一方、製造業がマイナス水準に落ち込んでおり、景気の停滞がみられる。業況水準の結果をみると、業種別の景気動向に大きな差異が表れており、特に建設業を取り巻く経営環境が良いことがわかる。次期見通しの全業種のDI は30、建設業→42、製造業→30、商業→15、サービス業→41 である。4製造業は次期見通しになった場合、大きく数値を回復している。その他の業種では商業が比較的低い数値となっている。

 

2. 売上・利益が増加した理由、減少した理由

売上・利益が増加した理由として1 番多かったのが、「売上数量・客数の増加」の47.6%であった。次いで「売上単価・客単価の上昇」の16.7%、「得意先の業況変化」の12.7%であった(「その他」の18.3%は除く)。一方、売上・収益が減少した理由でも1番多かったのが、「売上数量・客数の減少」「売上単価・客単価の低下」の23.0%であった。次いで多かったのが、「得意先の業況変化」の12.7%、「人件費の増加」の11.9%であった。今回の結果では、売上・収益の減少理由として、「人件費の増加」の割合が増加しており、人手不足の解消のために人件費を増加させている傾向がみられる。

 

3. 設備投資の状況、資金繰の状況

設備投資について、今期の実施状況と次期の実施予定状況についてみていく。今期、設備投資を実施したと回答したのは全体の28.6%にとどまった。さらに、次期に設備投資を計画していると回答したのは31.0%であり、次期に設備投資を計画している割合が若干増加傾向にある。今期に設備投資を実施したと回答した企業で投資した項目別にみてみると、多い順に、「機器設備」が69.4%、「事務所・店舗」が19.4%、「情報システム」が11.1%であった。次期の設備投資計画でも、「機器設備」が59.0%と高い割合を示しており、次いで「事務所・店舗」が20.5%、「情報システム」「その他」がともに15.4%であった。設備投資を行う際には、自社の製品・サービスの質を高めることにつながる機器設備が対象となる傾向が強い。資金繰の状況について、今期の借入金の増減と現在の資金繰の状況をみていく。今期の借入金に関して、増加→11.9%、横ばい→30.2%、減少→25.4%、無借金→31.7%で借入金が減少している会員企業の割合が高いことがわかる。一方、資金繰の状況に関しては、余裕あり→17.5%、やや余裕→15.1%、順調→34.9%、やや窮屈→22.2%、窮屈→7.9%と余裕ありとやや余裕と回答した企業が3 割を超えており、窮屈感はみられない。自社の業績を伸ばすための設備投資等で資金が必要な場合には、円滑に資金調達が可能な会員企業が比較的多いことがわかる。

 

4. 現在の経営上の問題点・力点

現在の経営上の問題点をみていく。これは各企業上位3つまでを選び回答したものである。1番高い割合を示したのが、「従業員不足」の33.3%で、次いで「同業者相互の価格競争の激化」の27.0%、「人件費の増加」の23.0%となっている。大企業を中心に新卒採用(大学生)の規模を拡大しており、中小企業の採用活動が順調とは言い難い。そのような背景から、人を採用するために就職説明会等の開催の増加や、給与の増加も検討せざる得なくなっていることがあげられる。経営上の力点については、現在実施している項目と、今後新たに実施したい項目それぞれで上位3つまでを選んで回答したものである。まず、現在実施中の力点では、多い順に、「新規受注の確保」→53.2%、「付加価値の増大」→42.9%、「社員教育」→29.4%となっている。今後新たに実施したい項目で1番多かったのは、「新規受注の確保」の40.0%であった。次いで、「付加価値の増大」→38.9%、「人材確保」→26.2%となっている。現在実施中の項目の上位と今後新たに実施したい項目の上位がほぼ同じであったが、「社員教育」「人材確保」といった項目の割合が高くなっており、人を採用し、育てていく重要性が改めて認識された。また、自由記述(特別質問の項目)で回答されていたなかで、経営上の問題点・力点に関連した内容に触れてみると、「事業継承者を育てるのが1 番大変だと思う。他店は跡継ぎがなく、店をたたむ自営業が多い」といった声や、「現状の繁忙はオリンピックまでは続くと思われる。その後建設業界は一挙に冷え込むと考えておくことが大切で、それまでに企業の転換を考える必要があると思われる」といった声があった。上記のように、常に景気動向に注視しながら、販路開拓を実現できる組織体制を構築していく必要性がある。自社の製品・サービスの強みを改めて見つめ直し、既存の取引先だけではなく、多岐にわたる取引先を開拓していく姿勢が重要となる。

 

5. 特別質問の結果について

今回の特別質問では、会員企業の経営状況を具体的に把握するために、「直近の決算状況」「経営理念について」「経営方針について」「経営計画について」「前年度と比較した正規雇用の増減」の項目を設けた。まず、「直近の決算状況」では、黒字→63.5%、横ばい→19.0%、赤字→14.3%、無回答→3.2%となった。黒字の割合が約6 割となっており、会員企業は黒字傾向にあることがわかる。次に、「経営理念について」では、明文化されている→62.7%、明文化されていない→22.2%、作成中→10.3%、無回答→4.8%となった。経営理念の明文化に取り組んでいる会員企業が多いことがわかる。「経営方針について」では、明文化されている→62.7%、明文化されていない→23.0%、作成中→11.1%、無回答→3.2%となった。経営方針の明文化に取り組んでいる会員企業が多いことがわかる。「経営計画について」では、明文化されている→54.0%、明文化されていない→31.0%、作成中→11.8%、無回答→3.2%となった。経営計画の明文化に取り組んでいる会員企業が過半数となっているが、明文化されていない会員企業も少なからず存在していることがわかる。「前年度と比較した正規雇用の増減」では、増加した→37.3%、横ばい→46.0%、減少した→13.5%、無回答3.2%となった。横ばいが多くなっているが、増加した割合も約4 割近くあった。上記のような結果を基に、経営理念、経営方針、経営計画と売上高(前年同期比)、経常利益(前年同期比)、直近の決算(黒字)の関係性を明らかにするためにクロス分析1を行った。経営理念、経営方針、経営計画を明文化している会員企業の方が、売上高の増加、経常利益の増加、直近の決算の黒字の割合が全体的に高い。特に直近の決算の黒字の場合では、約7 割以上が経営理念等を明文化している会員企業となっている。一方、成文化しない会員企業でも、各項目で増加の割合が低くはなく、神奈川県中小企業家同友会の会員企業は全体的に経営状態が良いといえる。

 

図表3

第3号 神奈川同友会景況調査報告(KDレポート)