中小企業は日本の総企業数の99.7%を占め、日本経済の屋台骨と言っても過言ではありません。しかし、高齢化の影響で2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人が後継者未定になると言われています。
事業承継には「親族承継」「社内承継」「外部招聘による承継」「売却」などがありますが、中小企業で多いのは親族承継ではないでしょうか。
2022年10月度の例会で経営実践報告を行っていただいたのは、神奈川県中小企業家同友会(以下、神奈川同友会)湘南支部に所属されている岩根一樹氏です。岩根氏は創業者である父(現会長)から2018年3月に承継を受け、代表取締役に就任されました。
従前から「親族には継がせない」と会長が言っていたことから、岩根氏は地図のゼンリンへ入社します。しかし、「もしかしたら事業承継の話しがいつかあるかもしれない」と考えていたそうです。
同じ時期に会長が神奈川同友会へ入会し、経営を学んだことがきっかけになったのか、突然「会社を継ぐ気はあるか?」と。ゼンリンに入社したばかりの岩根氏は5年待ってくれと言います。
3年後、ゼンリンで新規プロジェクトのメンバーに選ばれた岩根氏は「プロジェクトをやるからにはしっかりと結果を出したいが、そうなるとあと2年で退職は難しい」とゼンリンを退職し、カズ・マリンプロダクツへ入社します。
事業承継の準備にはする側、される側ともそれぞれ準備があると思いますが、岩根氏が行った大きな準備は2つ。「英語習得のための海外留学」と「中小企業診断士の取得」です。
カズ・マリンプロダクツは主にヨーロッパから輸入を行っているため、英語は必須。このため、イギリスへ10カ月留学し、英語力を鍛えました。また、経営者になると言っても「経営って何をすれば…?」と考えた岩根氏は経営の勉強のために中小企業診断士になることを決意。社業のかたわら勉強し、20代後半という異例の年齢で中小企業診断士に合格します。
この大きな準備を肯定的に受け止め、「やってみなさい」と背中を押したのが会長です。正しい事業承継の方法はないと思いますが、本当はいろいろと意見したくなるところをぐっと抑えていたのか。承継後も会長は岩根氏の経営にできるだけ口を出さずにいてくれるそうです。
しかし、35歳という若さで事業承継した岩根氏には、社員が自分よりも年上であることのギャップを埋めることが大変だったとのこと。まずは話しを聞くことに徹し、ようやく最近社長の判断に社員がついてきてくれるようになったそうです。社長が若くなったことで、社員が意見が言いやすくなったことは事業承継の効果だと語ります。
岩根氏が今後の展望として挙げた中に、「社長の賞味期限は15年」というものがあります。経営者が交代した時に若返る年齢は約15歳というデータがあり、ここから代替わりの平均は15年という数字が出てきます。
就任4年目の岩根氏は15年で承継するかどうかはわからないとのことですが、まだ自分の事業承継は終わっていないと語ります。自分が誰かに事業承継して、やっと自分の事業承継は終わると考えているそうです。
広報委員会でM&Aの特集を行った際に、「良い会社にしていれば、事業承継の形として会社を売却することになっても、『うちの会社はどこに出しても恥ずかしくない良い会社にだから、安値で叩かれて買われることはない』と胸を張っていられる」という話しを伺いました。
どんな形の事業承継があるにせよ
ということを実感してわかった報告でした。
(文責 株式会社アールジャパン 代表取締役 荒岩 理津子)