今回は、本紙の印刷をお願いしている「株式会社機関紙印刷所」の横山草太氏にお話を伺うことにした。
現在、共同求人委員会の副委員長を務め、次期委員長を期待される横山氏の素顔とは・・・。
横山氏は、1958年、日本屈指の米どころとして知られる新潟県魚沼で、教員の母と、親戚が経営する電気水道工事会社の役員をしていた父の間に、一人っ子として生まれた。幼少時代は川で魚を手づかみで捕り、野いちごを摘んで遊ぶ、元気な子どもだったと言う。
物心ついたときにはすでに滑っていたというスキーは、バッジテスト(全日本スキー連盟が定めるアルペンスキーの技能テスト)2級の腕前。
その反面、図書室が大好きな少し内向的な少年でもあった。中学に入ると、陸上部に入部する。
ところが、練習をしすぎて足のかかとを骨折してしまい、挫折。高校では、報道委員会に入る。
学校新聞のための取材や原稿制作に夢中になり、他校へも取材に出かけたという。
同時に、父の影響で、映画と芝居を見るのが生活の一部になっていた。
「でも、地元を出ることは、僕にとって、小学生時代から決めていたことでした。」
父の書棚を読破していた横山青年は、外の大きな世界に対する想いを募らせていた。
そこで、一浪して東京にある大学の文学部に入学した。
入学すると、図書館の本の多さに感激する。
「夢のようでした!」
純文学にはなじめず興味が持てなかったと語るが、その読書量は半端なものではなかったようだ。
「特に、幕末の歴史物が好きでした。その他にも松本清張などを読んでいましたね。ショーロホフの『静かなドン』は全巻読破しました。」と、横山氏。
その一方で、映画館通いも続いていた。
「『旅芸人の記録』は、4時間もの長い映画なのにも関わらず、2回見ています。」
大学時代、川崎で1人暮らしをしていた横山氏は、地域の社会人との交流も増えていった。
その中で知り合ったのが、保育士をしていた現在の奥様である。30才で結婚。その後、一人娘をもうけている。
周囲が就活を始めて行く中、横山氏は迷っていた。故郷に帰る気はなかったが、企業に就職する自分がどうしてもイメージできなかったという。そんなとき、知人に紹介されたのが、公務員の労働組合の書記という仕事だった。
だが、書記とは言っても共済の手続き、一般会計事務など、仕事は多岐にわたった。次第に自分の中に矛盾が広がっていった。緻密な実務は得意ではない。孤独は好きだが、人と話すことは嫌ではない・・・。社会人となり八年が過ぎた一九八九年夏、現在の「株式会社神奈川機関紙印刷所」に入社することになる。
孤独が好きだと思っていたが、営業の仕事は性に合った。人と話し、取引先との関係を築いていくのは楽しかった。
やがて、2011年、株主総会で代表取締役に就任。
しかし、当時は会社の方向性を巡って社内が対立し、40人いた社員が4人も辞めた後だったという。
まさに組織的危機の最中だったのである。
「しかも、経営のことは何も知りませんでした。経営の勉強をしたことはおろか、経営の本さえ読んだことがなかったのです。」
そこで、以前からの社外の人脈に学んでいった。
さらに、同社がある金沢産業団地内の他企業とも積極的に交流を重ねた。
また、発足以来の会員であった神奈川同友会の例会にも参加した。
「前任者からの引き継ぎは何もなかったので、同友会のことも最初は何もわかりませんでした。
でも、社員の中途採用におけるトラブルもあったので、2013年から同友会の共同求人による新卒採用に復帰したのです。」と、横山氏。
そして、すぐに例会で知り合った金子厚子さん(株式会社フェアネス・コーポレーション)に採用や社員教育のコンサルタントを依頼したと話す。
「面接の訓練もしてもらい、2014年から新卒の社員がついに入社しました。そのとき入社した社員は、今も当社の要になって働いていてくれています。」
今、会社は少しずつ変わり始めている。現在、会社の売り上げの99%は機関紙誌、広報紙誌、選挙ポスターなどの印刷業務で、残りの1%はウェブサイトの制作、周年事業のイベント・セミナーの開催サポート、自費出版の編集・制作などが占める。
そして、今年会社は60周年。
記念事業のテーマに「SDGs」を選び、昨年10月、「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」を主宰する「株式会社鈴廣本店」の鈴木悌介氏を招聘して講演会を開催した。
「社会のために何ができるか」という大きな新しいテーマに向かって、走り出している。
もちろん、仕事の合間に映画や新劇の芝居を見に行くことも忘れない。
映画館で山田洋次監督と横尾忠則さんに出会い、遠慮がちに声をかけることができたことはちょっと自慢だったりするのである。
株式会社神奈川機関紙印刷所
所在地:横浜市金沢区福浦2-1-12
TEL:045-785-1700
URL:http://www.kki.co.jp/
〈取材・文/(有)マス・クリエイターズ 佐伯和恵 撮影/中林 正幸〉