売上高DI、経常利益DI は、増加している。経常利益の水準DI、業況判断DI に関しては減少傾向。業種別の特徴は、前年同期比の売上高DIにおいて、情報・流通・商業が他業種よりも高い数値となっている。
【調査要領】
※文章中のDIとは、ディフュージョンインデックス(Diffusion Index)の略で、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数値です。
玉川大学経営学部准教授 長谷川英伸
全業種の売上高 DIは、前年同期比で 20(前回調査時、以下省略)→27 の 7 ポイント増加、次期見通しは 19→22 の3 ポイント増加となっている。各業種の DI は下記の図表 1 の通りである。前年同期比では、建設業の 9→0 の 9 ポイント減少、製造業の 27→20 の 7 ポイント減少、情報・流通・商業の 36→43 の 7 ポイント増加、サービス業の13→34 の 21 ポイント増加となっている。次期見通しでは、建設業の 11→21 の 10 ポイント増加、製造業の 9→14 の 5 ポイント増加、情報・流通・商業の 36→8 の 28 ポイント減少、サービス業の 25→29 の 4 ポイント増加となっている。同時期に調査した中同協のDORでは、前年同期比の売上高 DI は 9、次期見通しでは、11 となっている。
全業種の売上高 DI は増加しているが、次期見通しでは減少している。建設業の前年同期比の売上高 DIが 0、次期見通しでは 20 と大きく回復している。製造業の前年同期比の売上高 DI は 20、次期見通しでは 14 と数値を落としている。情報・流通・商業の前年同期比の売上高 DIが 43、次期見通しでは 8 と大きく減少している。サービスの前年同期比の売上高 DI が 34、次期見通しでは 29と減少傾向にある。
次に、経常利益をみてみる。全業種の経常利益 DI は、前年同期比で 2→3 の 1 ポイント増加、次期見通しは 9→11 の 2 ポイント増加している。各業種の DI は下記の図表 2 の通りである。建設業は、前年同期比が 0→△7 の 7 ポイント減少、次期見通しでは、△11→31 の 42 ポイント増加している。製造業は、前年同期比が△14→△9 の 5 ポイント増加、次期見通しでは、△11→9 の 20 ポイント増加となっている。情報・流通・商業は、前年同期比が 45→7 の 38 ポイント減少、次期見通しでは、50→0 の 50 ポイント減少となっている。サービス業は、前年同期比が 4→13 の 9 ポイント増加、次期見通しでは、20→11 の 9 ポイント減少となっている。同時期に調査した中同協の DOR では、前年同期比の経常利益 DI は△6、次期見通しでは、△3 となっている。
全業種の経常利益DIはほぼ横ばいで、次期見通しでは数値が回復している。建設業では、前年同期比が△7、次期見通しでは 31 と大きく増加している。製造業は前年同期比が△9、次期見通しは 9 と回復している。情報・流通・商業では、前年同期比が 7、次期見通しは 0 と減少傾向にある。サービス業では、前年同期比が 13、次期見通しは 11 と減少している。
経常利益の水準については、黒字の割合から赤字の割合を差し引いた経常利益水準 DI でみていく。全業種の DI は 30→25 の 5 ポイント減少、建設業は 44→9 の 35 ポイント減少、製造業は 14→21 の 7 ポイント増加、情報・流通・商業は 46→21 の 25 ポイント減少、サービス業は 37→33 の 4 ポイント減少している。全業種のなかで、製造業のみが増加している。同時期に調査した中同協の DOR では、採算水準 DI は 24 である。
次に業況水準についてみていく。全業種の DI は 0→5 の 5 ポイント増加、建設業は 0→7 の 7 ポイント増加、製造業は△5→9 の 14 ポイント増加、情報・流通・商業は 9→7 の 2 ポイント減少、サービス業は 2→2 の横ばいとなっている。製造業の数値は水面下を脱している。同時期に調査した中同協の DOR では、業況水準 DI は△7 である。
業況判断では、全業種の前期比は 22→11 の 11 ポイント減少、前年同期比は 16→14 の 2 ポイント減少、次期見通しは 25→15 の 10 ポイント減少となっている。同時期に調査した中同協の DOR では、前期比の業況判断 DI は△2、前年同期比の業況判断 DI は 4、次期見通しの業況判断 DI は 1 である。
建設業の前期比は 27→0 の 27 ポイント減少、前年同期比は 50→7 の 43 ポイント減少、次期見通しは△9→15 の 24 ポイント増加となっている。製造業の前期比は 32→9 の 23 ポイント減少、前年同期比は 5→6 の 1 ポイント増加、次期見通しは 16→14 の 2 ポイント減少となっている。情報・流通・商業の前期比は 36→7 の 29 ポイント減少、前年同期比は 36→7 の 29 ポイント減少、次期見通しは 27→7 の 20 ポイント減少となっている。サービス業の前期比は 9→16 の 7 ポイント増加、前年同期比は 21→23 の 2 ポイント増加、次期見通しは 39→18 の 21 ポイント減少となっている。サービス業は他業種と比較して回復している。
経常利益が増加した理由として 1 番多かったのが、「売上数量・客数の増加」の 45.3%であった。次いで「売上単価・客単価の上昇」の 28.3%、「人件費の低下」、「金利負担の減少」、「その他」の 5.7%であった。一方、経常利益が減少した理由で 1 番多かったのが、「売上数量・客数の減少」の 29.7%であった。次いで「原材料費・商品仕入額の増加」の 21.9%、 「その他」の 14.1%であった。
経常利益が増加した理由として、売上数量と売上単価の増加は、経常利益に大きく影響していることがわかる。経常利益が減少した理由で、「原材料費・商品仕入額の増加」の割 合が前回の調査よりも高くなっており、会員企業の利益を押し下げている。
設備投資について、今期の実施状況と次期の実施予定状況についてみていく。今期に設備投資を実施したと回答したのは全体の 43.0%→45.4%、次期に設備投資を計画していると回答したのは 49.5%→47.9%であった。今期の設備投資を実施した割合が前回の調査結果よりも増加しているものの、次期の設備投資は伸び悩んでいる。今期の設備投資を実施したと回答した企業で投資した項目別(上位 3 位)にみてみると、「設備機器」が 21.0%、「採用」が 17.0%、「情報機器」が 15.0%となっている。次期の設備投資計画では、「設備機器」が 28.6%、「採用」が 19.5%、「広告」が 13.0%という結果になった。今期、次期の設備投資において、「設備機器」の割合が高いのが特徴的である。
資金繰の状況について、現在の資金繰の状況をみていく。資金繰の状況に関しては、余裕ありが 20.6%→26.9%、やや余裕が 14.0%→14.3%、順調が 36.4%→29.4%、やや窮屈が 20.6%→26.1%、窮屈が 8.4%→3.4%となっている。余裕ありとやや余裕と回答した企業割合からやや窮屈、窮屈と回答した企業割合を引いた資金繰 DI は、6→18 の 12 ポイント増加している。資金繰は前回の調査よりも余裕がみられる。
現在の経営上の問題点をみていく。これは各企業上位 3 つまでを選び回答したものである。1 番高い割合を示したのが、「仕入単価の上昇」の 19.6%、次いで「従業員の不足」の 15.1%、「人件費の増加」の 11.8%となっている。「仕入単価の上昇」、「人件費の増加」といった費用の項目が高い割合を占めている。
経営上の重点では各企業上位 3 つまでを選んで回答したものである。まず、現在実施中の力点では、多い順に、「新規受注(顧客)の確保」の 17.8%、「付加価値の増大」の 17.5%、 「人材確保」の 16.9%となっている。売上高の増加を図るためには、新規顧客を開拓することが重要となるが、人材が不足している可能性がある。
今回の特別質問では、「自社の現況」に関する項目について行った。結果をみていくと、まず、世界情勢の影響を受けているかを問う項目(複数回答可) では、「ウクライナ侵攻」は 20.6%、「アメリカ経済の利上げ」は 7.9%、「中国のロックダウン」は 17.5%、「米中関係(台湾情勢含む)」は 3.7%、「円安(為替)」は 24.3%、「影響なし」は 14.3%、「わからない」は 8.5%、「その他」は 3.2%であった。円安の回答が一番多く、次いでウクライナ、中国に関する項目が上位となっている。一方、米中関係の割合は比較的低かった。
物価が上昇するなかでの価格転嫁に関する項目では、「できている」は 36.5%、「できていない」は 43.5%、「物価上昇の影響なし」は 20.0%であった。価格転嫁ができていない割合が最も多かった。また、物価上昇の影響がないと回答している割合も少なく、業種によって影響の度合いが違う可能性がある。
「経営環境」における自社の「困りごと」に関する項目(自由記述)では、「物価が上昇」、 「ガソリン、電気、ガス等の上昇」、「人件費の上昇」、「一部の客先が値上げを承諾してくれない」、「部品入手困難」、「採用活動しているが人材不足」、「最低賃金上昇に伴い、時給も上げているが、扶養控除の限度額が変わらないので、働く時間が短くなるだけで会社も本人も困っている」、「部品等を作ってくれる工場がない」といった回答がみられた。会員企業は、特に物価の上昇に伴って、費用が増加し利益を減少させている現状に困っていることがわかる。
以上のように、景況調査結果の数値をみると、売上高 DI、経常利益 DI は増加している反面、経常利益の水準 DI、業況判断 DI の数値が伸び悩んでいる。一方で、特別質問の回答をみると、物価上昇は仕入単価等の増加を生み出し、利益を失わせる要因となっているにもかかわらず、その対応策(価格転嫁)が十分ではない会員企業も存在する。