主要な指標は減少していないものの、数値は伸び悩んでいる。製造業は回復傾向にある。
設備投資の割合は、大きな落ち込みがみられる。経営課題に関しては、前回調査時と同様に人手不足が懸念されている。
【調査要領】
※文章中のDIとは、ディフュージョンインデックス(Diffusion Index)の略で、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数値です。
玉川大学経営学部准教授 長谷川英伸
全業種の売上高DIは、前年同期比で24(前回調査時、以下省略)→28の4ポイント増加、次期見通しは21→25の4ポイント増加となっている。各業種のDIは下記の図表1の通りである。前年同期比では、建設業の60→16の44ポイント減少、製造業の△3→21の24ポイント増加、情報・流通・商業の63→6の57ポイント減少、サービス業の27→41の14ポイント増加となっている。次期見通しでは、建設業の10→5の5ポイント減少、製造業の14→27の13ポイント増加、情報・流通・商業の50→△6の56ポイント減少、サービス業の24→37の13ポイント増加となっている。同時期に調査した中同協のDORでは、前年同期比の売上高DIは9、次期見通しでは、12となっている。
全業種における前年同期比の売上高DIは28、次期見通しでは25となっているので、数値は伸び悩んでいる。建設業の前年同期比の売上高DIが16、次期見通しでは5となっており、数値は落ち込んでいる。製造業の前年同期比の売上高DIは21、次期見通しでは27と数値が増加している。情報・流通・商業の前年同期比の売上高DIが6、次期見通しでは△6と数値は減少している。サービスの前年同期比の売上高DIが41、次期見通しでは37と数値が減少している。
図表 1 売上高DI 値
次に、経常利益をみてみる。全業種の経常利益DIは、前年同期比で13→13の横ばい、次期見通しは17→17の横ばいとなっている。各業種のDIは下記の図表2の通りである。建設業は、前年同期比が60→5の55ポイント減少、次期見通しでは、20→16の4ポイント減少している。製造業は、前年同期比が△7→9の16ポイント増加、次期見通しでは、11→17の6ポイント増加となっている。情報・流通・商業は、前年同期比が50→△6の56ポイント減少、次期見通しでは、29→6の23ポイント減少となっている。サービス業は、前年同期比が10→22の12ポイント増加、次期見通しでは、18→20の2ポイント増加となっている。同時期に調査した中同協のDORでは、前年同期比の経常利益DIは1、次期見通しでは、4となっている。
全業種における前年同期比の経常利益DIは13、次期見通しでは17となっているので、数値は持ちこたえている。建設業では、前年同期比が5、次期見通しでは16と数値が増加している。製造業は前年同期比が9、次期見通しは17と数値は増加している。情報・流通・商業では、前年同期比が△6、次期見通しは6と数値は回復している。サービス業では、前年同期比が22、次期見通しは37と増加傾向にある。
黒字の割合から赤字の割合を差し引いた経常利益の水準DIに関しては、全業種のDIは39→32の7ポイント減少、建設業は70→47の23ポイント減少、製造業は18→12の6ポイント減少、情報・流通・商業は63→28の35ポイント減少、サービス業は41→42の1ポイント増加している。全業種のなかで、特に情報・流通・商業は大きく減少している。同時期に調査した中同協のDORでは、採算水準DIは31である。
次に業況水準についてみていく。全業種のDIは0→6の6ポイント増加、建設業は40→32の8ポイント減少、製造業は△17→△17の横ばい、情報・流通・商業は0→11の11ポイント増加、サービス業は2→12の10ポイント増加となっている。情報・流通・商業の増加幅は他業種よりも大きい。同時期に調査した中同協のDORでは、業況水準DIは0である。業況判断では、全業種の前期比は16→31の15ポイント増加、前年同期比は17→18の1ポイント増加、次期見通しは16→29の13ポイント増加している。同時期に調査した中同協のDORでは、前期比の業況判断DIは5、前年同期比の業況判断DIは4、次期見通しの業況判断DIは6である。
建設業の前期比は60→42の18ポイント減少、前年同期比は50→26の24ポイント減少、次期見通しは10→47の37ポイント増加となっている。製造業の前期比は△3→26の29ポイント増加、前年同期比は△3→19の22ポイント増加、次期見通しは7→33の26ポイント増加となっている。情報・流通・商業の前期比は50→17の33ポイント減少、前年同期比は38→△11の49ポイント減少、次期見通しは38→11の27ポイント減少となっている。サービス業の前期比は14→34の20ポイント増加、前年同期比は20→24の4ポイント増加、次期見通しは18→26の8ポイント増加となっている。製造業は数値が水面下を脱している。
経常利益が増加した理由として1番多かったのが、「売上数量・客数の増加」の52.9%であった。次いで「売上単価・客単価の上昇」の34.1%、「人件費の低下」、「本業以外の部門の収益好転」、「その他」の3.5%であった。一方、経常利益が減少した理由で1番多かったのが、「売上数量・客数の減少」の42.9%であった。次いで「人件費の増加」の17.9%、「原材料費・商品仕入額の増加」、「外注費の増加」の12.5%、であった。
経常利益が増加した理由としては、「売上数量・客数の増加」、「売上単価・客単価の上昇」の影響が考えられる。経常利益が減少した理由では、「人件費の増加」、「原材料費・商品仕入額の増加」の割合が上位となっている。
設備投資について、今期の実施状況と次期の実施予定状況についてみていく。今期に設備投資を実施したと回答したのは全体の51.5%→39.9%、次期に設備投資を計画していると回答したのは48.5%→39.9%であった。今期の設備投資を実施した割合は、前回の調査結果と比較すると割合が大きく減少しており、次期に設備投資を計画している割合も伸び悩んでいる。今期の設備投資を実施したと回答した企業で投資した項目別(上位3位)にみてみると、「設備機器」の19.6%、「広告」の16.7%、「採用」の15.7%となっている。次期の設備投資計画では、「設備機器」の24.4%、「採用」の18.6%、「広告」の17.4%という結果になった。今期、次期ともに、「設備機器」、「採用」の割合が高い。
資金繰の状況について、現在の資金繰の状況をみていく。資金繰の状況に関しては、余裕ありが19.2%→20.3%、やや余裕が11.1%→11.5%、順調が31.3%→30.4%、やや窮屈が30.3%→31.8%、窮屈が8.1%→6.1%となっている。余裕ありとやや余裕と回答した企業割5合からやや窮屈、窮屈と回答した企業割合を引いた資金繰DIは、△8→△6の2ポイント増加している。資金繰は若干だが改善している。同時期に調査した中同協のDORでは、資金繰りDIは15である。
現在の経営上の問題点をみていく。これは各企業上位3つまでを選び回答したものである。1番高い割合を示したのが、「従業員の不足」の18.3%、次いで「人件費の増加」の17.7%、「仕入単価の上昇」の11.0%となっている。「従業員の不足」の項目が最も高い割合を占めており、人材確保に苦慮している現状がある。
経営上の重点では各企業上位3つまでを選んで回答したものである。まず、現在実施中の力点では、多い順に、「新規受注(顧客)の確保」の21.1%、「付加価値の増大」の20.1%、「人材確保」の15.5%となっている。新規顧客の獲得に向けた施策を検討していることがわかる。
今回の特別質問では、自社の現況(昨年同時期との比較)に関連する項目が設定されている。結果をみていくと、まず、原材料の価格に関する項目では、「1~5%上昇した」は43.5%、「6~10%上昇した」は27.2%、「11%以上、上昇した」は8.2%、「減少した」は1.4%、「変化なし」は、19.7%となっており、「1~5%上昇した」の割合が最も高い。
次に社員(アルバイト・パートを含む)賃金に関する項目では、「1~2%上げる・上げる予定」は29.9%、「3~5%上げる・上げる予定」は42.9%、「6%以上、上げる・上げる予定」は15.0%、「変化なし」は11.6%、「下げた」は0.7%となっており、「3~5%上げる・上げる予定」の割合が最も高い。
次に多様な人材の雇用(採用)に関する項目(複数回答可)では、「高齢者を採用した」は15.8%、「若年者を採用した」は31.1%、「障害者を採用した」は5.1%、「外国人を採用した」は9.0%、「採用したくても出来なかった」は11.3%、「採用は実施していない」は25.4%、「その他」の2.3%となっており、「若年者を採用した」と回答している割合が最も高い。次に経営者保証(個人保証)に関する項目では、「外れた」は25.3%、「外れていない」は53.4%、「経営者保証に関するガイドラインを知らない」は21.2%となっており、「外れていない」と回答している割合が最も高い。
次に労働環境の整備(労働安全衛生法)に関する項目では、「取り組んでいる」は72.3%、「取り組んでいない」は18.9%、「労働安全衛生法を知らない」は8.8%となっており、「取り組んでいる」が最も高い回答割合となっている。
次に外部環境について影響があるものに関する項目(複数回答可)では、「金融情勢(円安・株高など)」は44.6%、「世界情勢(ウクライナ・イスラエル・中国など)」は22.3%、「アメリカ大統領選」は3.8%、「影響はない」は22.3%、「その他」は7.1%となっている。「その他」の自由記述では、少子化、働き方改革、診療報酬・介護報酬の改定による収入減といった回答もあった。
最後に脱炭素・SDGsに関する項目では、「取り組んでいる」は52.0%、「取り組んでいない」は48.0%となっている。脱炭素・SDGsへの対応は、約半数が取り組んでいることがわかる。
以上の景況調査結果を振り返ると、DIは全体的には減少していないものの、横ばいとなっている指標もある。特別質問の回答をみると、賃上げを積極的に行っている割合が多いが、その原資をいかに獲得していくかが問われるだろう。