売上高DI、経常利益DI は、停滞している。経常利益の水準DI に関しては回復。各主要項目の次期見通しの数値に関して、伸び悩んでいる。
業種別では、建設業の一部の項目で大きく減少している。
【調査要領】
※文章中のDIとは、ディフュージョンインデックス(Diffusion Index)の略で、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数値です。
玉川大学経営学部准教授 長谷川英伸
全業種の売上高DI は、前年同期比で18(前回調査時、以下省略)→20 の2 ポイント増加、次期見通しは23→19 の4 ポイント減少となっている。各業種のDI は下記の図表1 の通りである。前年同期比では、建設業の33→9 の24 ポイント減少、製造業の11→27 の16 ポイント増加、情報・流通・商業の18→36 の18 ポイント増加、サービス業の21→13 の8ポイント減少となっている。次期見通しでは、建設業の36→11 の25 ポイント減少、製造業の22→9 の13 ポイント減少、情報・流通・商業の6→36 の28 ポイント増加、サービス業の26→25 の1 ポイント減少となっている。
全業種の売上高DI は増加したものの、次期見通しでは減少している。建設業の前年同期比の売上高DI が24 ポイント下落し、次期見通しでは若干だが回復している。製造業の前年同期比の売上高DI は14 ポイント増加し、次期見通しでは、大きく減少している。情報・流通・商業の前年同期比の売上高DI が18 ポイント増加し、次期見通しでは横ばいとなっている。サービスの前年同期比の売上高DI が8 ポイント減少し、次期見通しでは回復している。
次に、経常利益をみてみる。全業種の経常利益DI は、前年同期比で8→2 の6 ポイント減少、次期見通しは15→9 の6 ポイント減少している。各業種のDI は下記の図表2 の通りである。建設業は、前年同期比が25→0 の25 ポイント減少、次期見通しでは、36→△11の47 ポイント減少となっている。製造業は、前年同期比が0→△14 の14 ポイント減少、次期見通しでは、15→△11 の26 ポイント減少となっている。情報・流通・商業は、前年同期比が18→45 の27 ポイント増加、次期見通しでは、△7→50 の57 ポイント増加となっている。サービス業は、前年同期比が8→4 の4 ポイント減少、次期見通しでは、16→20の4 ポイント増加となっている。
全業種の経常利益DI は減少し、次期見通しでは回復している。建設業では、前年同期比が25 ポイント減少、次期見通しではさらに下落している。製造業は前年同期比が14 ポイント減少、次期見通しは伸び悩んでいる。情報・流通・商業では、前年同期比が27 ポイント増加、次期見通しでも増加傾向にある。サービス業では、前年同期比が4 ポイント減少、次期見通しは大きく回復している。
経常利益の水準については、黒字の割合から赤字の割合を差し引いた経常利益水準DI でみていく。全業種のDI は19→30 の11 ポイント増加、建設業は30→44 の14 ポイント増加、製造業は△6→14 の20 ポイント増加、情報・流通・商業は56→46 の10 ポイント減少、サービス業は21→37 の16 ポイント増加している。全業種のなかで、情報・流通・商業のみが減少している。
次に業況水準についてみていく。全業種のDI は△8→0 の8 ポイント増加、建設業は25→0 の25 ポイント減少、製造業は△20→△5 の15 ポイント増加、情報・流通・商業は6→9 の3 ポイント増加、サービス業は△12→2 の14 ポイント増加している。製造業の数値は水面下のままである。
業況判断では、全業種の前期比は10→22 の12 ポイント増加、前年同期比は20→16 の4ポイント減少、次期見通しは21→25 の4 ポイント増加となっている。建設業の前期比は25→27 の2 ポイント増加、前年同期比は50→9 の41 ポイント減少、次期見通しは33→△9 の42 ポイント減少となっている。製造業の前期比は△3→32 の35 ポイント増加、前年同期比は27→5 の22 ポイント減少、次期見通しは22→16 の6 ポイント減少となっている。
情報・流通・商業の前期比は12→36 の24 ポイント増加、前年同期比は18→36 の18 ポイント増加、次期見通しは6→27 の21 ポイント増加となっている。サービス業の前期比は15→9 の6 ポイント減少、前年同期比は15→21 の6 ポイント増加、次期見通しは21→39の18 ポイント増加となっている。建設業の数値は他業種よりも減少幅が大きい。
経常利益が増加した理由として1 番多かったのが、「売上数量・客数の増加」の41.6%であった。次いで「その他」の29.9%、「売上単価・客単価の上昇」の20.8%であった。一方、経常利益が減少した理由で1 番多かったのが、「売上数量・客数の減少」の21.3%であった。
次いで「その他」の19.7%、「原材料費・商品仕入額の増加」の13.1%であった。
経常利益が増加した理由として、売上高の増加が経常利益を押し上げていると考えられる。経常利益が減少した理由で、「原材料費・商品仕入額の増加」の割合が高くなっており、国際的な原油高、物流コストの高騰等が影響している。
設備投資について、今期の実施状況と次期の実施予定状況についてみていく。今期に設備投資を実施したと回答したのは全体の34.7%→43.0%、次期に設備投資を計画していると回答したのは46.6%→49.5%であった。今期の設備投資を実施した割合が前回の調査結果よりも減少している。今期の設備投資を実施したと回答した企業で投資した項目別(上位3 位)にみてみると、「設備機器」が20.3%、「採用」が17.7%、「情報機器」が13.9%となってい
る。次期の設備投資計画では、「事務所・店舗」・「設備機器」が21.3%、「採用」が20.2%、「広告」が11.2%という結果になった。今期、次期の設備投資において、「採用」の割合が高いのが特徴的である。
資金繰の状況について、現在の資金繰の状況をみていく。資金繰の状況に関しては、余裕ありが20.3%→20.6%、やや余裕が18.6%→14.0%、順調が35.6%→36.4%、やや窮屈が16.1%→20.6%、窮屈が9.3%→8.4%となっている。余裕ありとやや余裕と回答した企業割合からやや窮屈、窮屈と回答した企業割合を引いた資金繰DI は、16→6 の10 ポイント減少している。資金繰は前回の調査よりも困難となっている。
現在の経営上の問題点をみていく。これは各企業上位3 つまでを選び回答したものである。1 番高い割合を示したのが、「従業員の不足」の18.4%、次いで「仕入単価の上昇」の18.0%、「同業者相互の価格競争の激化」・「人件費の増加」の8.6%となっている。「従業員の不足」、「仕入単価の上昇」の割合が高く、人の問題とコストの問題が経営を圧迫している。
経営上の重点では各企業上位3 つまでを選んで回答したものである。まず、現在実施中の力点では、多い順に、「付加価値の増大」の18.6%、「新規受注(顧客)の確保」の17.2%、「社員教育」の13.3%となっている。既存事業の付加価値を高め、同時に新規顧客を獲得する経営努力の実態が存在している。
今回の特別質問では、「With コロナ」の取組に関する項目について行った。結果をみていくと、まず、コロナ禍前(2019 年)と現在の経営状況の比較に関する項目(設問1)では、「良い」は32.7%、「横ばい」は39.3%、「悪い」は28.0%であった。「良い」と「横ばい」の割合を合わせると、約7 割がコロナ禍前と現在の経営状況について、少なくとも悪化していない形となる。
設問1 で「良い」と「横ばい」に回答した方で、コロナ禍の取組に関する項目(複数回答可)では、「値上げ(価格転嫁)した」は5.8%、「新規開拓(営業)を強化した」は12.4%、「新規事業を始めた」は6.2%、「BCP に取り組んだ」は3.1%、「SDGs に取り組んだ」は4.4%、「ゼロゼロ融資(コロナ対応融資)を利用した」は9.8%、「DX に取り組んだ」は5.3%、「国・地方自治体の制度や施策を活用した」は7.1%、「昇給した」は7.1%、「既存のお客さんとの関係を強化した」は11.1%、「経営指針を修正した」は4.0%、「社員教育にじっくり取り組んだ」は4.9%、「採用(新卒・中途)した」は8.0%、「経費の削減、事業の再構築などのリストラをした」は3.1%、「その他」は7.6%であった。二桁の割合となった項目は、「新規開拓(営業)を強化した」、「既存のお客さんとの関係を強化した」である。
設問1 で「良い」と「横ばい」に回答した方で、コロナ禍でも「良い」または「横ばい」の経営状態にいられる「最も考えられる要因」に関する項目(自由記述)では、「B to B からB to C の強化」、「巣ごもり需要の恩恵を受けている」、「日頃から自社課題の把握および課題解決への取り組みを行う事で想定外の事(コロナ等)が起きても対応ができた」、「経営指針作成部会の受講により、人を生かす経営「社員は最も信頼できるパートナーと考えること」を実行中」、「新規開拓と既存顧客との関係性強化を同時に実施していること」等の回答があった。コロナ禍による特需の恩恵を受けた会員、日頃から想定外の状況を検討してきた会員、新規開拓を積極的に行った会員、既存顧客との関係性を強化した会員は少なくともコロナ禍においても業績を維持できている可能性が高い。
以上のように、景況調査結果の数値をみると、主要な指標で伸び悩んでいることがわかる。一方で、特別質問の回答をみると、コロナ禍においても多くの会員企業がさまざまな経営努力を行い、経営基盤を維持させている現状も把握できた。