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神奈川県中小企業家同友会
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地域と共に歩む化粧品メーカー・近代化学株式会社の今とこれから

2025年5月会社訪問レポート

今回訪問させていただいたのは、神奈川県海老名市西部に本社を構える近代化学株式会社。次期後継者であり専務取締役のウチャル未来さんに、同社の歩みと未来への展望についてお話を伺いました。

会社の概要・沿革

1955年に銀座で「岡部美容室」として創業した近代化学株式会社は、創業者の志を受け継ぎ、現在は3代目社長・岡部達彦氏のもとで、ヘアケア製品の処方開発、製造・販売を行う企業として発展してきました。

日本初のパーマ文化の導入、液体シャンプーやカラートリートメントの開発、大手メーカー専属の受託製造から始まり、OEMへと展開。2025年で設立71年という長い歴史を刻んでいます。

自社ブランドへの挑戦

23年前、近代化学は新たな挑戦として別会社「JCOS(ジェイコス)」を設立。プロフェッショナル製品を展開したのち、地域の特産品を活用した自社ブランド化粧品の開発に乗り出しました。

その第一弾として社内から生まれたアイデアが、地元特産のいちごを使った化粧品。生のいちごを原料とする開発は、品質の安定化や製造工程の難しさなど数多くの課題が伴いましたが、それらを一つひとつ乗り越え、完成までには2年の歳月を要しました。

完成した商品は現在、ふるさと納税の返礼品や海老名サービスエリアなどでも販売されており、地域資源を無駄にせず、付加価値の高い製品として「地産地消」や「ご当地コスメ」のモデルを築いています。

さらに、大学との産学連携を通じて、いちご成分の効果に関する研究も継続中。科学的根拠に基づいた製品開発を進めています。

現在は第二弾として、独自原料「ヨウ化ニンニクエキス」と「コラーゲンエキス」を配合した育毛サポート製品(シャンプー)の開発にも着手。「JCOS」の専用工場である「近代化学」が処方開発し地域と美容を結ぶ新たなビジネスの形を創り出そうとしています。

ウチャル未来さんについて

ウチャルさんは4人姉妹の長女として生まれ、実家は父親が勤務する美容室メーカーの2階に位置していました。幼い頃から会社に遊びに行き、シャンプーを体験したり、カラーチャートに触れたりと、美容が日常の一部として身近にある環境で育ちました。

短大卒業後は保育の道へ進み、幼稚園に勤務。念願だった学年主任も務め、子どもたちと向き合いながら着実にキャリアを積んでこられました。そんな中、6年前に現社長から声をかけられ、近代化学へ入社。

前職で培った現場経験と組織運営力を活かし、自身の強みである「人の心に寄り添い、現場をまとめる力」を発揮。社員の声に丁寧に耳を傾けながら、組織の結束を高め、業務の円滑化に尽力されています。

また、冷静に現状を見極め、リスクを的確に捉える優れたバランス感覚を持ち合わせており、社長と社員双方の理解者として、企業の未来を支える重要な存在となっています。

事業継承についての考え

現実的で慎重派のウチャルさんと、挑戦型で即行動の岡部社長。継承者として、どこまで共感し、どこまで実行するのか——そのバランスを取ることの難しさを語りつつも、「違い」こそが強みであるとウチャルさんは前向きに捉えています。

「継ぐだけではなく、より良く変えるための土台をつくる」——その信念には、異なる視点をもつ後継者としての覚悟が表れていました。

異業種からの転身であることから、化粧品製造に関する知識不足を課題とし、業界理解を深めることで、社員・取引先・顧客からのさらなる信頼獲得を目指し、日々学び続けているとのことです。自身の中に「夢を描く力」を育てている最中だと語る姿には、芯のある優しさと覚悟がにじんでいました。

表彰実績

2023年:厚生労働省より薬事関係功労賞として、神奈川県知事より保健衛生表彰

2024年:「青い羽根募金」への支援(日本水難救助事業、能登半島)

2024年:全国盲導犬募金への協力

コロナ禍では手荒れ防止クリームや除菌ジェルの無料配布など、地域に根差した社会活動も多数実施

近代化学は、業界の枠を超えた社会貢献を継続しており、企業としての姿勢がこうした実績に表れています。

近代科学の事業の強み

長年にわたり培ってきたノウハウを活かし、美容師や毛髪診断士といったプロフェッショナルが処方を手がけることで、確かな品質の製品を製造。国内では希少な「粉体製造設備」を完備し、ヘナカラーの開発にも対応しています。

OEMに強い一方で、独自の原料開発も行い、海外展示会へも積極的に出展(ISO22716・ISO9001取得済)。さらに地元雇用を大切にし、社員が「楽しく働けること」を何よりも重視し、「社会に笑顔を広げたい人」を歓迎する求人が象徴するように、経営理念「共に幸せをつくり、世界中に笑顔を届ける」を実践されています。

働きやすい職場環境づくりと女性の活躍推進

近年では多様性と働きやすさに焦点を当てた取り組みを積極的に展開。社員約80名のうち、女性比率は6割へと増加。製造・研究・営業・企画といった従来男性が中心だった部署でも、女性が多く活躍するようになりました。

柔軟な発想と丁寧な仕事ぶりが社内に新たな風を吹き込み、会社全体に活気とバランスをもたらしています。時短勤務や家族手当といった育児・介護支援制度も充実。役員5名中2名が女性、部課長職でも女性が増えており、年齢・性別・ライフステージにかかわらず、それぞれの強みを活かせる環境が整えられています。

女性専用のトイレや更衣室といった設備整備はもちろん、法改正への迅速対応や人事評価制度の刷新も社外専門家と連携しながら進行中。こうした取り組みの成果として、現在は20代から70代まで幅広い世代(平均年齢47.8歳)が在籍し、次世代人材の育成も着実に進められています。

社内文化と働きやすさへの取り組み

社内には複数の委員会があり、社員主導のイベント企画が盛んに行われています。たとえばレクリエーション委員会では夏祭りやBBQなどを開催し、社員や家族との交流を深めることで、コミュニケーションの活性化と業務効率の向上に貢献しています。

未来貢献委員会では、現在食堂をカフェテリアにリニューアル中。人が集まり、人と人がつながる——そんな会社づくりを大切にする経営者の想いが、随所に感じられました。

今後の展望とウチャルさんの夢

「良い製品をより多くの方へ届けるには、“作る力”だけでなく“売る力(マーケティング)”も必要」と語るウチャルさん。今後はマーケティングの強化に取り組むと同時に、管理職やリーダーとして女性が活躍する場をさらに広げ、多様な視点による製品開発・組織運営を目指したいと考えておられます。

性別やライフステージにかかわらず、社員一人ひとりが自分らしく働き、成長できる職場づくりを——そんな職場を「これからも目指し続けたい」と力強く語るウチャルさん。

将来的には、保育士の経験を活かして社内託児所の設置にも取り組みたいとのこと。近代化学がさらに社会から求められる企業として発展していく未来が、自然と目に浮かぶようなお話でした。

取材後期

近代化学さんを訪問して最も心を打たれたのは、経営者が掲げる理念が、社内でしっかりと体現されていることでした。理想で終わりがちな理念を、後継者がしっかりと引き継ぎ、実践し続けている——その決断力と行動力に、同じ経営者として深く共感しました。

緑豊かな広い敷地内は美しく整備されており、歴史を感じる建物を今も美容室として活用している様子からは、心のゆとりと地域への愛着が伝わってきました。ご案内いただき、お話を伺う時間そのものが、とても癒しに満ちた体験でした。

ウチャルさんありがとうございました。

文責:(株)ベルザ 福岡智子